La mer bleue

紫野いき・10

幼馴染で喜久子の数少ない友達である酒井成子に頼み込まれたのはコンパへの出席だった。
大学には親しい女友達がほとんどいない。
喜久子の通う大学は男子が多く、女子が少ないというのもあるが、喜久子の雰囲気がどうも他の女子学生と違いすぎて、みんな近づいて来ないのだ。

成子とは小中高と同じ学校で、遠い親戚と言うこともあり、比較的仲良くしていた間柄である。
成子は小中高の付属の大学に通っている。勉強よりももっぱら男女交際と趣味のテニスや乗馬に情熱を傾けるごく一般の女子大生だ。旧華族の家に生まれ、皇室の縁戚もいるので育った環境が喜久子と似ている。が、喜久子と違い大変に社交的である。
当然、友達も多く、コンパやパーティを大いに楽しんでいる。

今回、コンパに出る予定の1人が急に来られなくなり、喜久子にぜひ来てくれと頼まれた。

「いいじゃない、大学3年にもなってコンパにも出たことないって喜久子ちゃん、絶対におかしぃって!一度は経験してみなさいっ!」

「うん。でも、気が進まないわ・・・」

「だからぁ、変な人いないよぉ。東大出のエリート厳選だから。行きたいって女の子一杯いるけど、知らない子は誘えないしね。喜久子なら、大丈夫だし。コンパの後、お誘い受けても自分でイヤならイヤって言える人だからさぁ。気に入った人がいれば、それはそれで良いじゃん!」

「ええ、でも、私、婚約者もいるのよ。それに今、好きになりかけの人もいるの・・・・・」

「えぇぇぇぇぇぇ・・・喜久子に好きな人がぁぁぁぁ・・・・わーーーーーー、その話、じっくり聴きたいっ!」

「え!うん。でも、私、振られそうなのよ・・・」

「へーーーーーー、ま、それだったら、なおさら、今度のコンパに来なさいよぉ。婚約者の脩は放置でいいしさぁ。今時、親の決めた婚約者と結婚なんかする人いないしねぇ。じゃ、決まり! 絶対に来るべし!」

「え、ええ。わかったわ。。。」

ここのところ、大学と家の往復だけでモヤモヤしていた喜久子は気分転換でいいかもしれないと思い。コンパに出てみることにした。

具体的な話を聞いてみると、成子の友達の兄の友達とコンパらしい。
男の人は全員社会人で、全て、あちらがご馳走してくれると言う女の子にとっては至れり尽せりの良い話しだった。しかも、相手はみんなエリートらしい。と、成子から喜久子は聞いた。

電話があった翌週の土曜日の夜がコンパの日だった。
淡島通りにある、地中海料理のレストランで集合。
そこで、食事をすることになっていた。喜久子は場所を知らないので成子と待ち合わせ、一緒に行く事にした。

7時の約束だったので、5分前位に喜久子と成子はそのレストランに着いたのだが、他のメンバーはもうみんな席に着いていた。

「じゃあ、一応、乾杯して、それから食事を出してもらいましょう」と成子の友達の兄と言う人が仕切っていた。

男女各4人の合計8人で食事は始まった。

女の子は喜久子以外は小中高校から付属の大学に行った子ばかりで、顔見知りの子ばかりだった。
男のほうはみな社会人と聞いていたので喜久子は少し、緊張をした。

レストランが暗いし、みんな座っているので、よく分らなかったが女の子はみんなオシャレをし、バツチリメイクをし、美人ぞろいだった。

イヤだなぁ、私、一人浮いてそう。いつも通りの薄化粧にスッキリとしたシンプルな通学用のワンピースの喜久子は他の女の子の着飾った様子をみてギョッとしたのだ。

今日、自分達にご馳走してくれる男たちは大学の同級生で歳は25〜26歳だった。

「僕は遠山信彦、25歳。商社に勤めてます」
「僕は山本一志。○○出版に勤めてます」と一人一人簡単な自己紹介をしていた。最後の背の高そうな1人は「僕は山田正志。法務省勤務です」と

や・ま・だ・ま・さ・し・・・・と喜久子は今、山田正志と名乗った若い男を凝視した。

Tシャツを着た、サラサラヘアの端正な顔立ちの男。
どこかで見た事がある。

この人は誰だろう?どこかで会ったことがある。
どこでかしら?と思い巡らしている時にハタと思い当たった。

公安の山田だ!

このサラサラヘアを七三に分けて固め、セルの眼鏡をかけワイシャツにネクタイ、背広を着せたら、山田になる。
それにしても、山田がこんなに若かったとは思いもしなかった。
しかも、東大出なんだ、彼。ふぅーん。。。ちょっと見直したかも。

喜久子は山田は30過ぎた妻帯者だとばかり思っていた。
いつも地味なスーツにやぼっい眼鏡に髪型。
あれは仕事上の顔なんだろうか?いや、これは山田とは違う人物かもしれない。。。よく似た人とか、兄弟とか。。。

もしかして、これも私の見張り?それとも純粋にプライベートでコンパに来ているのかしら?

分らないけど、ここは大人しくしておこう。と
ニコニコしながら、隣の遠山と名乗る男と話をしていた。
ぎこちなく始まったコンパもワインを飲みながら料理を食べ終わる頃には最初の緊張感はほぐれていた。

中には親しそうに、目を見つめたりする女の子もいて、お互いに何組か、カップルが出来そうな雰囲気ではある。

山田と名乗る男も、隣の化粧の濃い女の子と楽しそうに話している。
チラチラと山田を見ては、本当に公安の山田なのかしら?と思うがもし、プライベートで来ているのなら、関係ないわと思い途中からは隣の遠山との会話や食事に集中する事にした。


そうか、こういうのがコンパなのね。
隣の席の遠山は女の子なら誰でもが憧れる一流商社マンであと、数年したら海外に転勤するかもしれないと喜久子に話した。喜久子は遠山の話す商社内の出来事に耳を傾け、遠山も熱心に自分や仕事の事を話した。

遠山はごくごく普通の顔立ちだが、キリッと引き締まり知性的な優しい感じの男だった。
喜久子は遠山さんってなかなかいい人ねと思った。

デザートも終わり、店を出ると、みんなは二次会に行く予定らしかった。
時計は9時を少し回っていた。

喜久子は成子に「私は帰るね」と言った。
「えーーー、帰るの?遠山さん、喜久子ともっと話したいんじゃないかなぁ・・・」と言われたが、喜久子はみなとは別れて家に帰る事にした。

遠山にも引きとめられたけれど、喜久子はみんなと別れ渋谷までタクシーを拾っていく事にした。

タクシーを拾い、渋谷の駅まで行き、そこから電車に乗るつもりだった。

「送りますよ」と後ろから男の声がした。

振り向くと山田が喜久子の後ろに立っていた。