私のテディベア― 12

「今日はありがとう。何でも頼んでよ」とウォレンがレイコとスタンに言った。

「ワーイ、何頼もうかなぁ」とスタンはメニューを見ると、ジーッと見ながらオーダーを考えていた。

う、嘘みたい。こんなに格好よくなっちゃうなんて。そりゃ、もててたはずだわ。
レイコは変身したウォレンを見て、めまいがしそうだった。
スーザンが言ったとおりボストンのプリンス・チャーミングがいたから。

髪を少し切って、スタンと同じようなブランド物の服を着せるだけで、こんなに変わるものなのかしら?いつものダサイチェックのシャツを白いシャツに替えて、はきふるしたジーンズを黒のパンツに替えて、ベルトとジャケットをあわせただけなのに。ここにいるのはグリーンアイズの王子様。
「レイコ?どうしたの?」とウォレンに聞かれて「ううん、なんでもない」と答えたレイコはメニューを見てオーダーだけを考えることにした。

悩んだ末に、3人はお店のお勧めのシーザーサラダとミニッツステーキにワイン、チーズとパン、そしてデザートのアイスクリーム添えアップルパイをオーダーした。

「お腹いっぱーーい!」とレイコが言うとスタンも「うーん、満足!」とお腹をさすった。
「美味しかったね」とウォレンも満足そうだった。

今日は一日、レイコとスタンはウォレンの洋服や靴を買うのに付き合い、ウォレンをすっかり変身させた。2人とも大満足だったし、ウォレンもうれしそうだった。

「ねぇ、ウォレンは明日からその格好で研究所に行くの?」
「ん……。どうしようかなぁ。わかんない……」とウォレンが口ごもった。

「なんでよ。明日からオタクファッションは止めてほしいなぁ」とスタン。

「何だか、照れくさいよ。こんな格好で出勤なんて」

「でも、ウォレンって前は凄くオシャレだったって聞いたけど…」

「レイコ、僕のこと誰かに聞いた?」

「ええ。スーザンから聞いちゃった。ウォレン、これまでのことごめんなさい」

「いいんだ、別に秘密にしてるわけじゃないし。みんな、知ってることだから。新聞やTVにも出た事だしね。僕がダサイ格好してたのは認める。だけど、もともとの僕はあんまりオシャレに関心がなかったんだ。ボストンにいた時は全部、管理されてた。着るものも、食べるものも、言動も、何もかも……。親父やお袋たちが言う通りに、大学に行ってAを取って、アメフトして優秀選手になって、いろんなパーティに出て、名門の女と付き合ってた。無理してもてる男を演じたりしてた。みんなの手前。本当はうんざりしてたけどね。で、ある日、ズドーンさ。気が付いたら病院のベッドの中。それから、両親に宣言したんだ。今まで、ずーっと2人の期待に応えてやってきた、その結果がこれだ。撃たれたのは、2人のせいじゃないけど、一度死んだも同然の大怪我をしたんだから、これからは自分の好きなようにさせてくれって言った。リハビリが終わった時、これまでズーッとやりたいと思ってた研究だけに没頭することにした。独りで部屋に篭って研究して一日過ごす、それが本来の僕の姿ってわけ。ボストンのプリンスチャーミングは作られたもので、本当は研究オタクってわけ」

普段、あまりしゃべらないウォレンが一気に話す。

「ふぅーん、そうだったんだぁ。私はてっきり、ウォレンって本来の自分を隠してるのかとおもってた」とレイコがぽつりと言った。

「ウォレンって人付き合いが苦手みたいだなぁって思ってたけど、もともと社交的じゃないのに、それは辛かったねぇ。ゲイがカミングアウトしてなかったようなもんだねぇ」とスタンも言った。

「うん、だから、本来の自分の姿で付き合える友達が欲しかったんだ。研究オタクの僕でもいいって言ってくれる友達が……。あ、でも、自分でももう少しスタンみたいにオシャレはしようと思ってたんだよ。レイコもスタンもオシャレなのに僕だけダサイなぁって思ったのは確かだから」と言ってウォレンはにっこりと笑った。

ふぅーん、思ったよりこの人ってすれてないんみたいねぇ。

少しだけレイコはウォレンの打ち明け話を聞いて彼を見直した。