私のテディベア― 9

スタンはプリンストンの自分の研究室で計算式を解いていた。
チラッと時計を見ると12時すぎ、ランチをしようかどうしようか迷ったが、カフェテラスで軽く済ませることにして、PCのスイッチを切り、カフェテラスに向かった。

今日もコムデギャルソンのシャツとパンツを着て、モデルのようだ。

恋人だったチャックが亡くなって2年過ぎた。約1年ほど一緒に住んだ彼とは相性も良く、
本格的に2人で家を買おうかと話し合い、休日には2人で家を探していた。
チャックは金融専門の国際弁護士として成功していて、日本とアメリカをよく行き来していた。
もともと、日本が好きだったスタンと日本に仕事で行き始めてから日本びいきになったチャックはレイコも交えて食事をしたこともあった。

「レイコってキレイだよね」ってチャックがいつも言っていたなぁ。

胃が痛いと病院に行ったチャックが癌と分かり、その3ケ月後には帰らぬ人となった。
最初、エイズかと真っ青になった2人だが、検査の結果はスキルス性の胃癌だった。
スタンはチャックを看取り、その悲しみからまだ立ち直れずにいる。
「ハァ」とため息をつき、スタンは部屋に戻ることにした。チャックのことを思い出して、食欲が無くなったのだ。
チャックはスタンよりも頭一つ背が高く、縦も横も大きな男だった。
浅黒い肌に黒い髪、瞳だけは灰色がかったグリーン。繊細なハンサムのスタンとは対照的な男らしい顔立ちだった。

なんで死んじゃったんだよ!

「スタン!ランチしないのか?」とのっそりとウォレンが近づいてきた。今日もポロシャツにジーパンと言う典型的なオタクファッションだ。
「ああ、ウォレン、何か食欲無くてね」
「食べないとダメだよ、ランチしようよ」と無理やりカフェテラスに連れて行かれスタンはしぶしぶコーヒーとシーザーサラダをトレイに乗せた。
ウォレンはオレンジジュースにコーヒー、フライドポテトにチーズバーガーだ。
スタンと同じテーブルに座り、黙々とトレイの上の食べ物を食べている。
「ウォレン、今週の土曜日、空いてる?」とスタンが聞いた。
「ああ、特に予定ない。何?」
「僕とレイコで相談したんだけど。ウォレンを変身させようと思って」
「変身?どういう意味だ?」
「ウォレンって、洋服とか髪型、全然かまわないから、見た目をパリッとさせて、変身させようってこと!今のままじゃ、誰もデートなんてしてくれないよ。もちろん、レイコだって」とスタンが言った。
「う、うん……。そ、そうか」とスタンが下を向いた。

「なあ、ウォレン、お前レイコが気に入ったんだろ?デートしたり、寝たりしたいんだろ?」とスタンが単刀直入に聞いた。
「ああ、まぁそうだ。レイコは今まで僕の周りにいた女たちとは違うから、どうしたらいいか、わからないんだ。普通、女の方からジャンジャン電話してきたり、メールしてきたりするから」
「今のままじゃ、脈なしだな。気があるなら金払うから恋人の振りしてくれとか言わないで、お前の方からメールするなり電話するなりしろよ!レイコはあれで、けっこうもてるんだぜ。土曜日は俺とレイコがお前を変身させるからお前のカード俺たちに預けろ!」とスタンがウォレンに言った。
「わかった!で、レイコがもてるって本当に?」
「ああ、彼女、時々モデルもしてて、カメラマンとか雑誌の編集の男からよく誘れてる。たいてい、断ってるけどね」
「なんで、断ってるんだろ?」とウォレンが不思議そうに言った。
「さぁなぁ。そりゃ、わからん。レイコのタイプじゃないんだろ。白人が嫌いなのかもなあ。日本人は日本人同士でつるむのが好きだけど、レイコはあんまり日本人とは付き合わないがなぁ」とスタンが言った。
トレイの上の食べ物、飲み物をきれいに平らげたウォレンは「じゃ、土曜日に。レイコには僕から連絡してみる」と言って立ち上がった。
レイコとウォレンかぁ。上手くいくかなぁ。俺が心配してもしょうがないけどね。
インテリ美人で男嫌いと言われてるレイコと研究オタクで人間不信のウォレンじゃあなぁ。
スタンはまだ半分しか食べてないシーザーサラダを残すことにして、また大きくため息をついた。